
❏幻想館主人の書き置き❏
北野正宗の隠れ家、幻想館へ、ようこそいらっしゃいませ。
ここには、わたしが作った、思い入れのあるだいじなものたちを、いくつか置いてあります。
けれど、これらのものたちは、どれもみんな、けっこうな変わりものです。
なかなか、すべてのみなさんにすっと受け入れられるような、まっすぐで、まっとうなものたちではありません。
恐らく、多くのかたの目には、曲がって、うねって、意味不明で、醜いものとして映るかもしれません。
けれど、あなたさまがこの小さな幻想の家に迷い込んだのも、きっと、何かのご縁があってこそ、です。
広大な虚構の中から、わざわざここに迷い込まれたあなたさまなら、ひょっとしたら、ここにある変なものたちのことを、気に入ってくださるかもしれません(運が良ければ、ですが)。
もしそうなったら、これから、気が向いたときにでも、ふらっとあそびにきてください。
わたしも、時々、ふらっとかえってきます。あたらしい変なものを置きに。
ここは、わたしも含めて、普通からは外れていて、変なみなさんが、とうの昔に幻滅したいつもの世界から去りたくなった時、ふらっと帰ってくるための場所、わたしと、みなさんの家なのです。
ですから、どうぞごゆっくり、心の赴くままにお過ごしください。P.S. わたしはこの家を留守にしていることが多いので、その間は、ブロンド髪の彼女が留守番をしてくれています。
彼女は、名前のない子です。かんたんな案内役くらいならできる、ぶきっちょで、ふわふわ頭の子です。好きなように呼んで、だいじにしてやってください。

おかえりなさいませ。
えっと、あなたさまは、調整中 人目の旅人さま、みたいです。
わたしが、がんばってご案内します。
いつまでも、ごゆっくり、していってください。
、、、けれど、わたしは決まったことしかいえないので、わたしにはどうにもできないお申しつけの場合は、通信室からちょくせつ家主にお伝えくださいね。


概要
幻想館の恋人たちのひとり。ただし、ほかの恋人たちと異なり、この子は常にはっきりとした実体をもち、常に館の中にいて、何らかの仕事をしている。どこでどのようにして生まれたのか、どこからどのようにして館へやってきたのか、どうして主人はこの子にだけ仕事を与えているのか、そもそもこの子はどのような存在なのか、一切のことは不明。これまで、館の外に出たことは一度もないと思われる。
彼女の、表向きの一番の仕事は留守番である。主人のいない間、ずっとお留守番をしつつ、たまたま館に流れ着いた放浪者さんを迎え入れている。放浪者さんはたいてい疲れているので、食事も入浴も睡眠も、あらゆる身の回りのお世話をする。ただし、ふわふわ頭なので、決まったこと(ルーティーン)しか覚えられない。それ以外のことは頑張ってもせいぜい数個で、それもなにかを新しく覚えるたびに忘れていく。
いろんなところにくだものもりもり。これはどちらかというと主人の趣味らしい。本物。自分で食べることも、洗って切って放浪者さんにお出しすることもある。

真実
彼女は、北野正宗の幻想の中で唯一、現実を知り、現実に生きることができる存在である。そのため、幻想と現実の架け橋として、放浪者さんたちを現実に送り戻す役割をしている。言うなれば、幻想館の巫女さんである。
(あまりの異様な空気感の中、彼女は熱病にかかったかの様に廃墟と化した洋館の中を探索した。外とは異なる静寂の過渡の感覚がそうさせたのかも知れない。
暫く探索すると、幾度となく反射した月明かりですらわずかしか入らないような奥深くに、洋館の中では一際違和感のある意匠を発見した。
二本の柱に木を渡したもの…鳥居である。)
じつは、幻想館の中のどこかには、今なお神社があるらしい。今となっては管理人すらもその場所がわからないのだが…
