The starting and a turning point of Masamune Kitano
特別展示室

少年怪奇鬼譚 – Juvenile Bizarre Tale
Completed on 2 June 2023 (Original)
updated on 10 April 2025 (ver 2.0)
Ramastered on 7 July 2026 (ver 3.0)◆
This artwork is a turning point in the history of the art I draw and is the starting point of my current work.
この作品は、私がこれまでに描いてきた芸術の系譜における明確な転機となった作品であり、
現在の制作の原点中の原点となっています。
Story
少年は、物心のついた頃からとある施設で監禁されていた。
彼にとっては、意識のあるときもないときも、ずっとプラスチックの台にきつく縛り付けられているのが日常だった。
痩せた身体の左半分には赤黒い血管が浮き上がり、左目は黒い闇の中に赤い太陽を湛えていた。
左手の爪はいくら切っても長く伸び続け、一本一本が黒黒とした包丁のように尖りきっていた。
産まれながらの怪奇であった彼に、施設の職員は毎日悲痛な実験を施していた。
数々の暴力的な行為により、やがて彼に一対あった翼のうちの片方は折れ曲り、まるで枯れ木の薄い外皮一枚で垂れ下がっているかのようであった。
それが当たり前だった。逃げるという選択肢が脳内に浮き上がることすら、彼の生きる環境では在り得なかった。
娯楽は、びっしりと黒く検閲された、最低限の言語能力を身に着けさせるための絵本とのみいう歪んだ環境下で、彼は日々、痛みに響鳴しながら薄く筋肉の浮き上がった肉体に血を巡らせていた。
しかし、ある日彼は捨てられた。それも、海に囲まれた街外れの、たった一軒の小さな家しかない半島の丘の道の中腹に、ぼろぼろで汚れきったシャツとズボンを履かされて捨てられていた。
左目にはガーゼの眼帯が付けられていたが、生まれつきに両足が鶏の足を大きくしたようにひん曲がっていたので、靴は履かされていなかった。
その両足の爪も、左手の爪ようにこの上なく尖り、人の命を刈り取る形というほか無い造形をしていた。
半島の丘の上、青い屋根の小さな家にはリリーという女性が一人で住んでいた。
彼女は笑顔の人だった。毎日笑顔で街まで歩き、街の小さな縫製所でミシンを踏み、笑顔で街の人々に挨拶し、笑顔の食料品を買い、笑顔の家に、かつて夫と過ごしたあの家に戻っていった。
笑顔は優しさであり、優しさは強さの産物だ。
彼女はそれだけ過去に傷ついた経験があり、だからこそ、全く境遇が異なっていたとしても、他人の痛みを想像する力を持っていた。
彼女の夫の墓は、丘の中腹から道を外れて下った小さな平地にあり、それがそこに建てられてからというもの、彼女は彼の墓石への口づけを欠かすことはしなかった。
少年が捨てられているのを発見したとき、彼女は心底驚き、そして言いようのない恐怖に襲われた。目の前に居るのは、それまでの人生で見たことも聴いたこともない、完全に未知の存在だったからだ。人間にとって、無知ほど怖いものはない。
しかし、彼と目が合った瞬間、彼女はそれをしまい込んですぐに彼を介抱した。その目を見ただけで、彼がむしろ彼女を気遣っており、けれどどうすればよいのかわからずに戸惑っていることがわかったからだ。
街外れの、それも自分しか住んでいない海に囲まれた丘の中腹に捨てられていた以上、彼が彼女に向けて意図的に捨て置かれたことは明らかだった。
更に、彼女が彼を発見してすぐに周囲を見回した時、ちょうど一艘の見知らぬ船が水平線に消えようとしていたところを彼女は目撃していた。
けれど、彼女はそのことを一切口に出さず、その出自について彼が気にかけないように、常に気を配っていた。
彼が家に訪れてからの日々。あれからずっとひとりで暮らしていた彼女にとって、それは本当に幸せなものだった。
もちろん、その困難は想像を絶するほど多かった。彼女は彼の傷を丹念に手当して、包丁のような爪を何枚もの布で分厚く覆い、家中のものの扱い方、何かあったときは心置き無く彼女を頼ること、自分のことをいつでも大切に扱うこと、ここで彼が彼として生きるためのすべてを彼に教えなければならなかった。
とくに、初日の夜の凄まじさは特筆すべきものであろう。夜になると彼は発作を起こし、左目を煌々と光らせ、身体中の傷跡が避けて血を吹き出し、昼間よりもずっと長く伸びた爪で彼女に襲いかかった。そのことを彼女は知らず、また彼も説明する能を持たなかった。
けれど、彼が彼女を殺そうとしていたまさにその瞬間、その目からは涙がぼろぼろと流れ落ち、その爪の先端が彼女の喉に触れる寸前で彼は必死に自分の肉体をこわばらせていた。
彼の全身からは血とともに冷や汗がぐっしょりと吹き出し、その幼い身体を濡らした。
そして、彼の身体のあちこちに、昼間は見えなかった縄で締め付けられた痕が浮き上がっていることに気がついた。
彼の行動が、決して彼の故意によるものではないことは明らかだった。彼女は最初、自分をベッドに縛り付けないことに疑問を持った彼がきょとんとしていることに驚いたが、その理由をすぐに理解し、二日目の夜からは全身を固く縛った上で、クッションや毛布をこしらえた浴槽で彼を眠らせた。浴槽を選んだのは、万一再び血が吹き出してもすぐに掃除できるようにするためだ。
近くに命を刈り取る対象がいなければその発作も起こらないようで、彼はすやすやと小さな寝息を立てていた。この家は2階建てで、浴室は1回、寝室は2階にあって距離が離れていることも幸運だった。
朝、風呂場の小さな窓から柔らかい光が差し込むころ、彼女は彼を迎えに来た。紐をほどき、こてんと力の抜けた彼の身体を、彼女は何度もきつく抱きしめ、彼の右の頬に彼女の右の頬をこすりつけた。ときおり、ぽかんとした彼の目からも、不思議と涙が零れ落ちていた。
たしかに人外なのかもしれない。普通の人間ではないのかもしれない。
けれど、彼がどれだけ優しい人間であるかを、彼が、そこらの人間たちよりもずっと、人間的な優しさと強さを湛えた存在であることを、彼女は最初の一日を共に過ごすだけで、十分すぎるほど理解していた。
彼の身体は、不思議な形でひん曲がっていたけれども繊細で、その身体の動かし方は限りなく優しかった。
彼が彼女の家にやってきてからというもの、彼女はたくさんのことを彼に教え、そして一緒にたくさんの時間を過ごした。
かつて夫に作っていた料理、夫のために活けていた花瓶の花、二人掛けのダイニングテーブルとテーブルクロス、グラタンを焼くためのオーブン。
それらが再び意味を持ち始め、彼女の人生に少しずつ戻っていった。
仕事帰り、そして休日の夕方、彼女はいつも彼の手を握って、夫の墓へと続く道を歩いていった。彼女と彼を包み込むの空は、印象派の油絵のように奇妙で、美しかった。
数年後、彼女の愛情を糧に自らの道を模索し始めた彼は、少し内向的で、理知的で思いやりのある学生へと成長していた。
その身体的特徴により周囲から奇異の目で見られつつも、彼は決してそんな自分を貶めたりすることはなかった。
彼は誰よりも彼女を愛し、そして彼女のことを守ろうとしていた。かつて、彼女が彼にそうしてくれたように。
彼と彼女は、なんの不足もない、本当に美しき日々を送っていた。
しかし、このころである。あの施設が、再び彼に接触をはじめたのは…
題名:奇形刹那 まだ技量も計画もへったくれもなかった頃に作った、まさに刹那的な最初期の物語。当時の原稿を完全に紛失しているため、自分の中に残った記憶を頼りに一部修正を加えつつ再構成した。この絵はもともと、この物語の最後に登場する成長した少年の肖像画として描かれたものだったが、この物語はこれ以上進展することはなく、絵の部分だけが独立し、こうして現在まで残されてることとなった。

2023年、ごく初期の頃のスケッチ
In preparation for this release, I meticulously redrew every detail. While it is an entirely new version, I ensured it retains the same meaning and atmosphere as the 2023 original. Furthermore, I incorporated a wealth of expressive elements that I was unable to achieve at the time due to technical limitations, resulting in a finished product that truly makes up for everything that was missing—a complete and definitive edition worthy of the name.
It may be a work that has finally reached completion after three years.
Thank you for viewing my artwork.
今回の再々リリースに際して、細部に至るまで当時の私の脳内イメージを想い出して照合し、とにかく丹念に描き直しました。
新しいバージョンではありますが、2023年のオリジナル版と同じ意味合いと雰囲気を確実に保っています。
精細でありながらも当時の作品により近いという意味では、2025年に制作したver 2.0よりも明らかに洗練されたと言えるでしょう。
さらに、当時の粗雑な制作環境や私自身の未熟さゆえに実現できなかった表現要素を数多く盛り込み、本来なら描きたかったのに欠けていた部分もすべて補ったことで、まさに完全かつ決定版と呼んで差し支えない作品に仕上がりました。
3年の歳月を経て、ようやく完成に至った作品と言えるかもしれません。
私の作品をご覧いただき、本当にありがとうございます。あなたに最大限の感謝を。
【About this piece】
My history as an artist on the internet began in 2023 when I started drawing fan art for the Touhou Project. At the time, I was using a different pseudonym, and I’ve changed my pseudonym several times since then.
Even before that—in fact, since I was a child—I had been creating original works, but this piece was the first original work I ever publicly posted online, and, more specifically, the first original work I created entirely in a digital environment.
(from this piece to the present day, I’ve always done my preliminary sketches analog-style on paper with a mechanical pencil, and I’ve applied the colors by hand, stroke by stroke, using painting software.)
インターネット上のアーティストとしての私の歴史は、2023年ごろに東方プロジェクトのファンアートを描き始めたことから始まりました。当時は別のペンネームを使っていましたが、それ以来、ペンネームを何度か変更してきました。
それ以前――正確には子供の頃から――オリジナル作品をずっと描いてはいましたが、この作品が私が初めてインターネット上に公開したオリジナル作品であり、より具体的言えば、現在に繋がるデジタル環境を用いて制作した最初のオリジナル作品でした。
(この頃から現在に至るまで、私は常に紙とシャープペンシルを使ってアナログ方式で下絵を描き、ペイントソフトを使って一筆一筆手作業で色を塗って作品を仕上げています。)
◇ Original (2023)

Completed on 2 June 2023
Tool : Ibispaint X
◇Original Time-lapse (2023)
https://www.youtube.com/shorts/u6h64V2ttV4
◇ ver 2.0 (2025)
Updated on 10 April 2025
Tool : ClipStudioPaint ver 2.0
◇Time-lapse ver2 (2025)
https://www.youtube.com/shorts/l-ba8FI_KlA
















































